交流分析(TA=Transactional Analysis)は、1950 年代後半に、アメリカの精神科医
Eric・Berne博士(1910 ─1970)によって、精神分析を土台とし人間性心理学を取り入れて創始されました。その基礎概念に加え、その後、直弟子たちによって発表された論文の中で、1971 年に設立された
『Eric・Berne記念科学賞』受賞論文が基盤となっています。
⇒各ジャンルの学び TA (交流分析)は、個人が自分の力で成長し変化するための
体系的な心理療法です。コミュニケーション理論や生涯発達理論、認知行動療法も取り入れ、潜在能力の顕在化し
自己実現につながります。 TAの創始者
Eric・Berne博士は精神分析医でありながら 、心の在り方を平易な言葉を用いて、行動変容に?がる理論を展開し、
『真の知識とは、言葉を知ることよりも、どのように行動するかを知ることである。(1949)』と言っています。 心理学と言うと、多くは難しい言葉や理論の宝庫ですが、 TAは、理論用語に親しみやすい日常語を取り入れているので
「精神分析の口語版」と言われています。
♥1♥ 心の“おもり”を取り除く
交流分析は、人間が本来持っている能力を肯定的に捉える次の三つの哲学に基づいています。行動変容を躊躇った時に、心の“ おもり ” を取り除き後押しをする哲学です。
『人は誰でもOKである』
「罪を罰して人を罰せず」と同じような考えに立っています。行動に対しては、受け入れることができない(not OK)ことはあっても、人間の存在までは否定せず尊重するという考えです。
『誰もが考える能力をもつ』
乳幼児からご高齢の人まで誰でも、その年齢や立場に応じた考えを持って行動しています。各人の考えを一人の人間として尊重するという考えです。
『人は自分の運命の決定権を持っていて、 その決定は自分自身で変えることが出来る』
いやいや物事に取り組んだり、無理やり命令され従ったと思っても、最終的に従ったほうが良いと判断を下したのは自分自身です。もし不快だと感じたら、自分自身で新たな決断をして方向性を変えることもできるという考えです。 今の生き方が、他者の顔色を見て従った結果ではなく、自分自身で選択して歩んできたことが理解できると、これから先の生き方も自分の選択次第だということに気づきます。すると、行動を妨げていた心の “ おもり ” がはずれ、変えることができるのは “ 今ここ ” での自分であると、自律的な一歩踏み出すことができるようになります。
♥2♥ 他者に頼らず自己分析できる交流分析
心理学の多くは、カウンセラーとの関係の中で、自己変容に繫げていきます。それに対し交流分析は、自分で学ぶことにより自己分析をして、他者に頼らず自分自身で自己変容に繫げることができます。 交流分析の目的は、
自律性の確立です。他人に振り回されることなく、自分が自分自身の主導権を取り、自己コントロールして意思決定をすることです。 そのためには、自分自身をいろんな角度から見つめることによって
気づきを高めることが第一歩です。気づきとは、理性で理解するのではなく、心でありのままに感じる
「アッ! そうか!」と思う体験です。子どものように物事を純粋な五感を通して感じることです。自分の思考、感情、行動の理解が深まると、他人も理解できるようになります。気づきがあると、さらに自己成長したいという感情が芽生えます。そこで大切なことは、他者に促されてではなく、
自分の意志で行動に移す
自発性です。自分の人生の運転手に自分がなることです。 その結果として、お互いに自分を偽ることなく、心を開いて感じていることや欲していることを共有し合う良い人間関係に繫がります。交流分析が目指すお互いの存在を肯定的に認め合う愛情と信頼に満ちた
親密な関係です。 “ 気づいて ” “ 自発的に動いて ” “ 良い関係を作る ” ことが
自律的な人生の勝利者への道に繫がります。
♥3♥ システマティックに学べる交流分析
交流分析は、他の心理学を否定したり排除したりするのではなく、認知行動療法、ゲシュタルト療法、発達心理学など、自己成長に有用と考えられる理論を積極的に取り入れています。 交流分析(Transactional Analysis)の
Transaction という言葉は、社会生活を営む人間が互いに意思や感情、思考を伝達し合う communication という言葉より深い意味があります。異なる自我状態を持った人々が、どのようにして互いに上手く意思を伝達するかを研究する際に使われ始めました。 バーンは、トランプで賭け事をしている人たちが、お互いに微妙な心理的駆け引きをしているのを見て、商取引などで用いるTransaction という言葉を取り入れました。 Transaction は、一連の作業を全体として一つの処理として管理する
「すべて成功」か「すべて失敗」のいずれかと言う意味を含んでいます。また、Transaction という言葉は、コンピューター関係でよく使われる言葉で、「関連する複数の処理をひとつの処理単位としてまとめたもの」です。 バーンが、この Transaction という言葉を使った理由のひとつは、
人間関係は、複雑で、微妙で、繊細で、と言いたかったのではと思います。また、“ 自分 ”“ 相手 ”“ その間で取り交わされる感情、考え、言動のやり取り ” の三つをトータルなものとして分析することの必要性を感じたのではないかと、筆者は思っています。 交流分析の各ジャンルの勉強は、いろんな角度から人間関係のTransaction をシステマティックに学ぶことができます。 まず、交流の発信者として、自分の内面も含めたあらゆる角度からの自己認識が必要であり
自我状態・人生態度・人生脚本・ディスカウント・ラケット感情などとして学びます。原因(個人の感情と思考)があって結果(言動)があるからです。精神分析の口語版と言われる色彩を残しているジャンルです。 次に、相手と自分の間において、どのようなやり取りが行われているかを学ぶのは、
ストローク・対話分析・ゲーム分析・オプションです。心のエネルギーのいろんなやり取りを学ぶことによって、「もしかしたら私のやり取りは……」と気づき、「このようなやり取りができるようになりたい」と自己変革を図るのです。 そして、
時間の構造化は、いろんなジャンルの学びにおいて気づいたことを、どのようなストロークのやりとりをして日常生活に取り入れていけば良いかを考える分野です。一般的に、コミュニケーションの勉強は関係性改善のみに焦点が当てられがちですが、交流分析は体系的にコミュニケーションの改善を図ります。
♥4♥ 学んだことから実践に活かせる交流分析
交流分析は、平易な言葉を用い理論を展開しているため理解しやすく、即、行動変容に活かせる非常に実践的な心理学です。初歩的な学びだけでも、学んだことから実践に活かせることができるので、
“ ジャンルごとにレシピ(処方箋)がある ” と言われています。例えば、
自我状態を学ぶと、性格エネルギーの特性がわかり使い分けができるようになります。
ストロークを学ぶと、相手への関わり方を改善できます。
やり取り分析を学ぶと、相手との言葉のやり取りをコントロールできるようになります。
人生態度を学ぶと、自分の心の状態がわかり、OKOK の態度を目指す大切さと方法がわかります。
心理ゲームを学ぶと、なぜ相手と不快なやり取りするのか、どうすれば改善できるか理解できます。
時間の構造化を学ぶと、日常の時間の過ごし方をストロークの密度に応じてコントロールできるようになります。
人生脚本を学ぶと、自分の性格のルーツがわかり、過去と切り離した自律的な生き方の大切さが理解できます。 このほかにも、自己成長に大切な気づきを得ることができます。交流分析のすべての理論が理解できて、始めて使い物になるのではなく、学んだところから実践に活かして行動変容に繫げることができます。
♥5♥ 生き方が楽になる交流分析
交流分析では、“ ねばならぬ ” と他律的な人生を送っている人に、
「~しても良いんだよ」と心に余裕を与える許可(allower)という考え方があります。 たとえば、真面目な人、できる人、頑張り屋さんは、何事においても一生懸命になりがちで、上手くいかないと落ち込みが大きいです。もし、そんな自分に気づいたら、「リラックスして良いんだよ。ケセラセラ」と自分に言ってみましょう。心に余裕が生まれ、良い人生の循環が生まれます。 また、相手や状況、気分、利害関係に合わせて、
適切かつ自由に関わり方を選択する代替案(option)と言う考え方があります。発明王エジソンは、「失敗したのではない。1万回うまくゆかない方法を見つけたのだ」と言っています。発想を少し変えるだけで生き方が楽になります。そのヒントを得ることが出来ます。 この
許可(allower)と
代替案(option)は、余裕を持って自律的に物事を捕らえ、自分を追い込まない大切な考え方です。